二つのFCR - 泥沼日誌

2009年1月16日

二つのFCR

■徐々にフュエルインジェクションへ移行しつつあるとはいえ、現代の高性能オフロードバイクに当たり前のように装着されているFCRキャブレター。そのFCRキャブレターをモトクロッサーとして世界で初めて標準装着したのが、我が愛機 YZ400F なのである。

そのFCRキャブレターだが、YZ400Fに装着されているFCRと今のモトクロッサーやエンデューロマシンに装着されてるFCRは、全くの別物であることはご存じであろうか。


左が1998年型YZ400FのFCR、右が2004型RM-Z250のFCRである。YZ400FのFCRは、ロードレース用のアフターパーツとして供給されていたものにモトクロス用の変更を加えたもので、RM-ZのFCRはモトクロッサーなどのオフロードバイク専用に開発されたFCR-MXと呼ばれるものだ。区別するため、YZ400F用の形状のものはロード用ボディーなどと呼ばれる場合もある。メインジェットやジェットニードルなどのセッティングパーツは共通で使える物もあるが、ご覧のように外見は全く別の形状をしている。

さて、このFCRキャブレターには致命的な欠陥がある。スロットルバルブの背面に取りつけられている浮動バルブが、経年変化で破損するという問題だ。

2007年にHOPで開催されたワイワイカップエンデューロでの出来事。このレースにYZ400Fで参加し (YAMAHA車だとエントリー料が割引なのだ) 調子よく走っていたのだが、突然エンジンの回転が落ちなくなり、コースのほとんどをリアブレーキ掛けっぱなしでスピードを調整し、なんとかピットまで戻ってきたのである。そしてその場でバイクをバラしてみると...


見事に浮動バルブが割れていた。欠けた破片はシリンダーを通って運よくエキゾーストから排出されたようだ。(そうでなければピットまで帰ってこれなかった)

実は、浮動バルブが割れたのはこれで二度目。最初は途中2年のブランクをはさんでの6シーズン目に、キャブの調子が悪いので分解したときにクラックが入っていたのを発見。二度目は割れた浮動バルブを交換後1年ほど後のこと。

FCRキャブレター装着車をアイドリング状態で置いておくと、吸気のタイミングでカタカタ音が聞こえるはずだ。これはスロットルバルブにフローティング状態ではめ込まれている浮動バルブが、吸気の背圧脈動によってキャブボディーに打ちつけられている音だ。

ご存じのように、FCRキャブレターのスロットルバルブにはその作動性を向上させるためにローラーが装着されているため、スロットルバルブとキャブボディーの間には透き間ができる。その透き間を埋めてスロットルバルブの密着性を保つために、浮動バルブがフローティング状態で装着されているのだ。この浮動バルブは背圧バランスバルブとも呼ばれる。

海外向けのFCRキャブレター取り扱い説明書には、この浮動バルブは定期交換部品であると明記されているらしい。二度目の破損が前回より短い期間で発生したのは、キャブボディーやスロットルバルブが摩耗し、クリアランスが増えてより強く浮動バルブが打ちつけられていたためだろう。元々レース用パーツであって一般的な使用は考慮されていない (長時間のアイドリングなど) FCRキャブレターではあるが、この程度の耐久性で許される物なのだろうか?

しかし、モトクロッサーが4st化されFCRキャブレターが装着されるようになって久しいが、モトクロスの現場においてはこの浮動バルブ破損のトラブルは聞いたことがない。その原因を探るべく、この二つのFCRのスロットルバルブを比較してみた。


上と同じく左がYZ400FのFCR、右がRM-Z250のFCR-MX。スロットルリンケージの向きが違うぐらいで、寸法・形状はほとんど同じ。浮動バルブも形状は全く同じに見える。だが、標準ボディーの浮動バルブとFCR-MXの浮動バルブは相互に交換することは出来ない。それはなぜかというと...


L刻印がYZ400F、M刻印がRM-ZのFCR-MX。形状・外形寸法ともに全く同じなのだが、裏側のスロットルバルブにはまり込む凸部分の位置がほんの少しだけ違うだけ。形状・寸法が同じなら、なぜ共通部品としなかったのであろうか?

割れてしまったL刻印の浮動バルブの表側の凹部分と裏側の凸部分は同じ位置で重なっている。写真のように、クラックはこの凹凸部分に添って走っている。機械設計や構造をかじったことがある方ならお分かりであろう。機械部品にかかる応力は、折れ目や角などの部分に集中しやすい。裏と表で凹凸縁の線が一致しているL刻印の浮動バルブでは、おのずとその部分に応力が集中しやすく、それゆえに経年変化で破損してしまうのだ。そしてFCR-MXでは、そのような応力の集中を避けるため、裏と表の凹凸をわずかにずらしてあるのだ。

そう、はっきりいってロード用の浮動バルブは設計ミスなのである。


■この事実はかなり前に分っていた。YZ400FのFCRキャブレターにはこのような設計上の欠陥があるため、たとえ新品の浮動バルブに交換してもすぐに同じように割れてしまうだろう。そう思って、2007年の事件以来YZ400Fは不動のまま放置されていたのだ。

しかし、最近この問題を克服出来るかも知れない、ある重要なアイテムの情報を手に入れた。そしてすでに、そのアイテムの手配は完了している。

そのアイテムとは何か...

次の報告にご期待ください。

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